職員研修用資料(OJT:境界性パーソナリティー障害の特性理解と支援の基本について)
境界性パーソナリティ障害の理解と支援の基本
~本人の気持ちを尊重し、安心して通える環境をつくるために~
就労継続支援B型事業所 Libreでは、利用者さん一人ひとりの特性や状況を理解し、適切な支援につなげるため、職員研修を行っています。
今回は「境界性パーソナリティ障害(BPD)」について、基本的な特徴や支援の考え方、日々の関わり方を学びます。
境界性パーソナリティ障害のある方は、感情の調整や対人関係などに困難を感じることがあります。しかし、その現れ方や困りごとは人によって異なります。

境界性パーソナリティ障害とは
境界性パーソナリティ障害(Borderline Personality Disorder:BPD)は、感情の調整、対人関係、自分自身に対するイメージなどに持続的な困難が生じる精神疾患です。
気持ちが大きく揺れ動いたり、対人関係の中で強い不安や苦痛を感じたりすることがあります。
ただし、こうした特徴があるからといって、必ず境界性パーソナリティ障害であるとは限りません。
症状には個人差があり、他の精神疾患や生活環境の影響によって似た状態が見られる場合もあります。診断は医師などの専門家が行うものであり、福祉事業所の職員が行動だけを見て判断するものではありません。
主な特徴と本人が抱えやすい困難
以下は境界性パーソナリティ障害で見られることがある特徴です。すべての方に当てはまるわけではありません。
① 感情の変化が大きいことがある
不安、悲しみ、怒りなどの感情が強く生じたり、短い時間で気持ちが変化したりすることがあります。
周囲から見ると小さな出来事でも、本人にとっては大きな苦痛につながる場合があります。
支援では、感情の強さだけを見るのではなく、何が負担になっているのかを丁寧に確認することが大切です。
② 対人関係で強い不安を感じることがある
大切に思っている相手から嫌われたり、見捨てられたりすることに強い不安を感じる場合があります。
例えば、職員が忙しくてすぐに話を聞けなかったときに、「避けられているのではないか」と受け止めてしまうことがあります。
このような場合は、本人の不安を否定せず、現在の状況を具体的に説明することが役立ちます。
③ 相手に対する評価が大きく変わることがある
相手を非常に信頼していた一方で、意見の違いや行き違いをきっかけに、強い不信感を抱く場合があります。
こうした変化が起きたときも、本人を責めたり、職員同士で評価したりするのではなく、どのような出来事があったのかを整理することが重要です。
④ 衝動的な行動が見られることがある
強い感情やストレスに伴い、十分に考える前に行動してしまう場合があります。
自傷行為など、自分自身の安全に関わる行動が見られることもあります。
ただし、自傷行為を行う方すべてが境界性パーソナリティ障害というわけではありません。また、境界性パーソナリティ障害のある方すべてが自傷行為を行うわけでもありません。
⑤ 自分自身に対するイメージが揺れ動くことがある
自分に自信が持てなかったり、自分の価値や目標について迷ったりすることがあります。
「自分は何をやっても駄目だ」といった発言があった場合には、安易に励ますのではなく、本人がどのようなことで困っているのかを確認します。
就労継続支援B型で大切にしたい支援
Libreでは、利用者さんが安心して作業に参加できるよう、本人の状況に応じた支援を行うことが大切だと考えています。
① 気持ちを否定せずに話を聞く
利用者さんから不安や不満の訴えがあった場合は、まず本人の話を聞きます。
例えば「職員に嫌われていると思う」という訴えがあったとき、すぐに「そんなことはありません」と否定するだけでは、本人の不安が十分に伝わらない場合があります。
「そのように感じたんですね。どのようなことがあったのか教えてもらえますか」
「不安に感じたことは分かりました。一緒に状況を確認しましょう」
気持ちを受け止めることと、本人の解釈をすべて事実として認めることは異なります。
気持ちには理解を示しながら、事実関係は分けて確認します。
② 職員によって対応が大きく変わらないようにする
同じ相談に対して、職員によって対応が大きく異なると、利用者さんが混乱したり、不公平感を抱いたりする場合があります。
そのため、相談への対応方法、作業中のルール、連絡方法などについて、職員間で共通認識を持つことが重要です。
ただし、全員に機械的に同じ対応をするという意味ではありません。本人の個別支援計画や合理的配慮の必要性も踏まえて対応します。
③ 適切な距離感を保つ
利用者さんとの信頼関係を築くことは大切ですが、特定の職員だけが相談を受け続けたり、個人的な関係が深くなりすぎたりすると、継続的な支援が難しくなる場合があります。
職員は、利用者さんを突き放すのではなく、事業所として継続できる関わり方を意識します。
具体的には、次のような対応を心がけます。
- 相談できる時間や方法を分かりやすく伝える
- 個人的な約束や特別扱いを安易に行わない
- 職員個人ではなく、事業所全体で支援する
- 担当職員が不在の場合の相談先を決めておく
- 必要な情報を職員間で共有する
適切な距離感を保つことは、利用者さんを拒絶することではありません。安心して継続できる関係を築くための取り組みです。
④ 本人の意思を尊重する
支援の中では、職員が一方的に行動を決めるのではなく、本人の希望や考えを確認します。
例えば、作業内容や休憩の取り方について困りごとがある場合には、本人の希望を聞き、実現可能な方法を一緒に考えます。
本人の希望が事業所のルールや他の利用者さんの安全と両立しない場合も、理由を丁寧に説明し、代替案を検討します。
⑤ 作業支援と相談支援のバランスを考える
B型事業所は、働く機会を提供し、生産活動を通じて社会参加や就労に必要な力を支える場でもあります。
利用者さんから相談があった場合は内容を確認しつつ、長時間の相談が必要なときには、別の時間を設けることや、相談支援専門員・医療機関等と連携することも検討します。
本人が安心して作業に参加できる環境と、継続的な相談体制の両方を大切にします。
実際の支援場面での対応例
以下は、職員研修のために作成した架空の事例です。
事例①「職員に嫌われている」と訴えがあった場合
職員が別の利用者さんの対応をしていたため、すぐに相談に応じられませんでした。その後、利用者さんから「私のことが嫌いなんですよね」と言われました。
「そんなことで怒らないでください」
「考えすぎですよ」
「すぐにお話を聞けなくて、不安に感じたんですね。先ほどは別の方の対応をしていました。今、お話を聞ける時間を確認しますね」
本人の気持ちを受け止めながら、職員側の状況を説明します。
事例② 特定の職員にだけ相談したいと言われた場合
利用者さんから「ほかの職員には話したくない。あなたにだけ相談したい」と言われました。
「私だけに何でも相談してください」
「ほかの職員に話せないなら相談は受けられません」
「私に相談してくれてありがとうございます。安心して相談できることは大切ですね。ただ、私がいない日もあるので、必要な支援が続けられるように、共有する内容を一緒に考えましょう」
本人の信頼を尊重しつつ、継続的な支援体制を整えます。
情報共有は必要な範囲に限定し、本人の意向や個人情報の取り扱いにも配慮します。
事例③ 利用者さん同士でトラブルが発生した場合
利用者さん同士の会話をきっかけに、一方の利用者さんが「悪口を言われた」と訴えました。
「気にしないでください」
「相手に悪気はないと思います」
「あなたの勘違いです」
「嫌な気持ちになったんですね。どのような言葉があったのか、順番に確認していきましょう」
職員は、一方の説明だけで事実を判断せず、必要に応じて関係者から個別に話を聞きます。
本人の気持ちに配慮しながら、事実関係、誤解、今後の対応を整理します。
自傷や自殺に関する訴えがあった場合
境界性パーソナリティ障害のある方の中には、強い精神的苦痛に伴って、自傷行為や自殺に関する考えが生じる方もいます。
こうした訴えは、診断名にかかわらず、真剣に受け止める必要があります。
「気を引きたいだけ」「いつものこと」と決めつけることは適切ではありません。
基本的な対応
- 本人の話を落ち着いて聞き、訴えを否定しない
- 自傷や自殺の考えがある場合は、差し迫った危険がないか確認する
- 職員個人で判断せず、管理者や責任者に速やかに報告する
- 必要に応じて主治医、医療機関、相談支援専門員などと連携する
- 生命に差し迫った危険がある場合は、119番通報など必要な緊急対応を行う
- 対応後は、事実と実施した対応を記録し、支援体制を見直す
上記は必ず順番に行う手順ではありません。生命に差し迫った危険がある場合は、報告や関係機関への連絡を待たず、119番通報などの緊急対応を優先します。
差し迫った危険がある場合は、通常の相談対応より安全確保を優先します。緊急時には本人を一人にせず、職員自身の安全にも配慮しながら対応します。
自傷や自殺に関する危険性の評価・治療は医療の専門領域です。事業所だけで解決しようとせず、関係機関との連携を重視します。
医療機関との連携と治療について
境界性パーソナリティ障害では、心理療法が治療の中心となります。
代表的なものに、弁証法的行動療法(DBT)があります。これは、感情の調整や対人関係への対処などを学ぶ専門的な心理療法です。
また、本人の状況によっては、ほかの心理療法や、併存する精神疾患に対する薬物療法などが検討されます。
これらは医師や適切な訓練を受けた専門職が行うものです。
B型事業所の職員は、独自に診断や治療を行うのではなく、本人の同意や情報共有の必要性に配慮しながら、主治医や相談支援専門員などと連携します。
職員間で共有しておきたいこと
利用者さんを適切に支援するためには、職員個人の経験や判断に頼りすぎず、事業所として対応することが大切です。
特に以下の点を共有します。
- 本人が困っていることや、相談内容
- 実際に確認できた出来事
- 本人が希望している支援方法
- これまでに行った対応と、その結果
- 安全上の配慮が必要な事項
- 医療機関や関係機関との連携が必要な事項
記録では、「本人がこう話した」「職員がこの場面を確認した」など、情報源を明確にします。
「職員に依存している」「注目を集めようとしている」といった、本人の心理を推測した表現を安易に使用しないよう注意します。
また、支援に迷いが生じた場合には、職員間で検討し、必要に応じて個別支援計画や対応方法を見直します。
支援する職員自身も大切にする
利用者さんが強い不安や苦痛を抱えている場面では、支援する職員も対応に悩んだり、精神的な負担を感じたりすることがあります。
そのような場合に、一人で抱え込む必要はありません。
管理者やほかの職員に相談し、事実関係や支援方針を整理します。
職員が安心して相談でき、組織として継続的に対応できる体制づくりも重要です。
今回の研修のまとめ
境界性パーソナリティ障害について学ぶ目的は、利用者さんを診断名によって分類したり、特別視したりすることではありません。
本人が感じている不安や困難を理解し、一人ひとりに適した支援を考えることです。
Libreでは、今回の研修を通じて、次の5点を大切にしていきます。
- 診断名だけで判断せず、本人の状況を理解する
- 気持ちを尊重しながら、事実関係を丁寧に確認する
- 適切な距離感を保ち、職員間で一貫した支援を行う
- 本人の意思と安全を尊重し、必要に応じて関係機関と連携する
- 職員一人で抱え込まず、事業所全体で支援する
これからも、利用者さんが安心して通所し、自分に合った形で生産活動や社会参加に取り組めるよう、職員一人ひとりが理解を深め、日々の支援に生かしていきます。



